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すっかり日を過ごしてしまい、熊本の船本さんを訪ねて1ヶ月。毎年のごあいさつ、今年の青柳の出来具合いやもろもろを伺いに行きました。

「竹内さん、遠くからよう来んさったなぁ」

いつもの笑顔、いつものあいさつ言葉で迎えてくれた船本さん、とてもお元気で、今年も変わらず、5月2日から、まずは親戚一同で手摘みをやって、青柳の釜炒り茶。続く機械刈りのお茶は自動式の釜炒り機で2週間もかけてお茶にして、今はシーズンもひと段落。うかがったのが5月末のそんなタイミングだったので、迎えてくれた船本さんの表情も穏やか。ちょうど遊びに来ていた熊有研のIさんと3人で、お漬け物や山の幸をお茶うけに、ゆっくりとお話を聞くことができました。

「やあ、平釜で400℃、しかも薪火でとなると、炒り切るんがエラいなぁ…」

プロの農家ではありませんが、根っからのお茶好きのIさんは、好きがこうじて毎年仲間と釜炒り茶づくり。この日は毎年恒例の成果報告です。なんと薪火の釜炒り茶に挑戦したとのことです。いただけばこれはこれ、プロも顔負けの香ばしい釜炒り茶でした。

そんなこんなのお茶談議は、自然と今年のお茶の出来の話に続きます。さても薪火の400℃とは、相当に薪を炊き込まないと出てこない、強くてぶ厚い温度です。輻射熱のトルクが強いということ。プロパンなどと違って火口だけが高温、というのとは違って、この火力で炒られた葉は水の出口がなく、葉の中に閉じ込められてしまいます。すると葉の中の高温でお茶が殺青されるのです。高温なので、炒り手はこの間、木のかぎ棒で釜の底をさらいながら、お茶が焦げないように、常に茶葉をかき回し続けないといけません。だからエラい。大変だという…


「今年の青柳は難しかった。天気もうまくなく、葉に水気がこもったようになったけん、炒るのがな、難しかったなぁ」

と、今度は船本さん。船本さんの青柳製は、カネコ式という、平釜に茶葉をさらうカギ手のついたシンプルな構造のもので、1度に炒る量は少なくて、船本さんの場合は7,8キロほど。さきほどの薪火なら理想的ですが、船本さんのカネコ式はプロパンなので、この釜で中心温度を450~460度に高め生の茶葉を炒り上げるとなると、それはそれで高い技術が必要になるのです。茶葉はしっかりした厚みのあるもので、量を少なく炒る。炒る前の水分含有量にも気を使います。すべては、高温で炒るために必要なことだからです。

さて、青柳とは、青柳式といって、熊本に古くから伝わる平らな鉄釜でお茶を炒る釜炒り茶の製法のこと。おいしい村では「本釜炒り茶」と呼んでいます。これに対して傾斜した釜で煽るように炒る、佐賀県の嬉野式という製法もあります。どちらも盛んにつくられていたのは昭和の初期までで、戦後は自動化が進み、九州で今でもたくさんつくられている釜炒り茶は、回転するドラムで炒る、連続式のもの。効率の問題でとってかわられていきました。

この連続式も、静岡が中心地となる蒸し製煎茶の効率には遠く及びません。品評会などで鮮やかな緑色を上とする基準のために、水色の茶色がかった釜炒り茶は、もともと評価も今ひとつ、常に価格は底を打つような状態で、戦後からこの方、蒸し製のお茶に押され、いや、押し切られてしまったのです。
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そんな自動化効率化大規模化のなか、船本さんが効率の悪い、青柳式の釜炒り茶をつくり続けているのはなぜ? 時代に逆行してますね? と問うて、船本さんはこんな返事を返してくれます…

「昔の釜炒りの香り、味。ワシはな、それが大好きじゃけん続けよる。カラっとしてな、釜の香りがなつかしいから、つくることを辞められん。じゃけん最近はワシの趣味じゃと…」

昔の釜炒りの香り。実はこれが青柳の釜炒り茶のよいところ。釜香といって、それは味わえばわかりますが、誰もが好きになる、それは香ばしい良い香りです。青柳じゃないとだめ。船本さんは、高温の鉄釜で注意深く炒り上げていかなければ、釜香は出てこないといいます。

連続式のドラム釜の温度で短時間に大量に処理すると、茶葉の芯温を上げることができないから、葉から出る水分を100度以上の水蒸気にして「蒸す」というのが、連続式の考え方です。すると、薪火のように「熱」そのもので炒りあげる、ということにはならず、できあがりがどうしても青臭くなる。蒸れたような香りを残す。だからそんなお茶も、仕上げには申し訳程度、丸釜を使って香りを立てようとしますが、それは本来の釜炒り茶とは本質的に違うつくり方です。芯で殺さず(殺青のこと)、外で殺すことになるから、本来外側で形成されるはずの香味がくぐもってしまう。それは船本さんの言う「昔の釜炒りの香り」ではないんだ…

…そんなこんなで終わらないお茶談議。今年の船本さんの青柳はまだできたてで青い感じを残しています。熱湯でいただくと、1分もせずによく出る茶水は揉みもしっかりしている様子。だから1煎目は軽く40秒ほどで香りを楽しみ、2煎目で味わいを出していくようにいただきます。だれでも4煎ほどの煎がだせ、いただけばわかりますが、この青柳製特有、いただいてしばらくあと、喉の奥の余韻が甘く続きます。

ということで、船本さんの青柳、秋に口開けで、落ち着かせいただくのがまた楽しみな今年のお茶になりました。

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