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奈良月ヶ瀬の岩田さんのお茶が届いた。

在来の一茶で、煎茶ではタブーとされてきた萎凋を施して香りを引き出し、ひと夏をゆっくり寝かせ、秋の終わりに蔵出し。そのお茶ならではの香味を楽しむお茶。萎凋とは、茶葉を収穫して静置乾燥させ葉をしおれさせることで、こうすると酸化酵素やホルモンの働きで茶は独特の花香を発揚する。歴史的には、烏龍茶や紅茶はこの作用を取り入れたが、蒸し製煎茶の世界では敬遠された。その影響か、かつて宮崎や熊本では自然に萎凋した葉を釜で炒る釜炒り茶が量産されていたが、今となっては希少なものです。
OLYMPUS DIGITAL CAMERA今年の萎凋茶は3品目をつくり、2012年の試作から順調に回を重ねているもよう。興味深いのは、題材に在来のお茶を選んでいる点。在来のおもしろさは、飲む者にとってはその地域、山の香りを探るような楽しみ。つくり手にとっては、定まってはいない複雑な特質を引き出し、その地域や山の香りとして導き表現する素材。高い見識と技術が必要と思うので、まずは品種茶でワザを磨いてはじめて取り組むような、在来のお茶は次元の高い存在ともいえる。世間の常識とは真逆の見方なのだけれど。

そんなお茶に出合うとうれしくなるし、いただきながら、その香味と、瞼の裏には風景や物語が広がる。農業は風景をつくる仕事だと熊本のMさんが言っていたが、在来のお茶は地域の風景、そしてテロワールと共にあるのだと思う。

お茶の淹れ方について。蒸し製煎茶の淹れ方としてよく言われるのは、低温で長時間抽出する方法。茶に含まれる旨味成分が高温で破壊されるので、低い温度で旨みたっぷりのお茶をいただきましょう、という。そのいっぽう香りを楽しむ釜炒り茶や烏龍茶、紅茶などでは高温で入れるのが良いとされる。香りが発揚しやすいからだ。

彼は蒸し製の煎茶で旨味ではなく香りを楽しむため、高温短時間抽出を提案している。ただ、煎茶を高温で抽出すると渋みが出るし、特有のムレ香が香りを邪魔するので、彼はごく短時間(なんと5秒!)の抽出を4回重ねる方法で回避した。すると低温ではくぐもっていた萎凋の花香が引き出されて湯呑みに落ちる。これを数回つぎ重ねる。このお茶は秋に蔵出し。煎茶は「秋落ち」といって、保存が悪いと夏を越して香りが落ちるといわれるが、またまた常識破り!ひと夏寝かせた分、花香も落ち着いて、萎凋香のお茶は品良く仕上がっていた。品種茶のわかりやすい香りとは違って、奥ゆかしさというか。良いお茶でした。

さてもう1点。蒸したお茶は成分が溶出しやすく、急須に何分も残せばふやけ、好ましくない成分も出るからか、おいしくなくなる。多肥(特に化成肥料で起こりやすい)で葉中に滞留する硝酸成分とも関係があると思っている。粗悪なワインの酸化防止剤(亜硫酸塩などが過多)が頭痛を起こすのと似ていて悪酔いするのだ。このお茶が煎を重ねられ、長くすっきりしているのは、彼独自の、自然農法的肥培管理によるものと思う。肥料分としてはカヤのみで、農薬化学肥料を使わない。動物性の有機質も、使わない。カヤ場の確保と管理がとてもたいへんといっていた。

……いろんな角度から、いつも何かを掴みながら、茶園を表現し続ける岩田さん。品種も、在来も、合組も、そして煎茶も紅茶も、どれも表現です。これからもたくさんの物語を紡ぎ出してほしいと思っています。

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