永い時間を越えて生き延びて来た在来野菜達の協力ラインナップ。食の本場といわれる所の素材を使って改めて庄内のすごさに気が付いた。流通最優先でここ30年の間に消えて行ってしまった庄内の数多くの在来野菜たち。今なら新しい組み合わせの在来野菜料理も数多くできるはず。在来野菜は庄内の香りをお皿に入れるエッセンスになる。家庭の食卓にももっとあがらせたい!今までの料理とは違う新しい世界がぼくの中で拡がり始めている。
先日の続きになる。上の引用は僕が入会した山形在来作物研究会(在作研)の会誌創刊号に寄せられた、奥田政行さんの「お皿に庄内のエッセンスお入れる」と題したエッセイからの抜粋だ。ご存じと思うけれど、奥田さんは山形県鶴岡市郊外にある超人気イタリアンレストラン、アル・ケッチァーノのオーナーシェフ。僕は、在作研創設のメンバーとして、始まったばかりのころの思いが綴られたこのエッセイが大好きだ。
今日は偶然その奥田シェフのレシピ本を見つけた。
『奥田政行のちゃちゃちゃっとイタリアン』という本で、副題が「素材を生かす塩マジック」とて迷わず購入。なんといっても、シェフの挑戦的な側面を思い出せるなーと思ったからである。
自分の在作研とのお付き合いの経緯は昨日書いた通りだが、庄内の有機農家、小野寺喜作さんに誘われて奥田さんを訪ねたのが2004年の春。その秋はイタリアのイベントで合流し、以降家族でも伺い、また2008年の夏には念願の取材も、させていただいた。トップ写真は、その取材の時のひとコマ。硬水? 軟水?…奥田シェフが何やらノートに書いているところ……
この取材、テーマが「水を巡る旅」。庄内のおいしい米や野菜が、この地の豊かな水系に育まれていることを料理で表現しようと、いささか背伸びした企画だったのだが、奥田シェフは、その「水」についての考えを、絵や図を交えながらノートに記し、わかりやすく説明してくれた。その上で、水の違いを食べ比べましょうと逆提案してくれ、なんと前日に鳥海山の伏流水滔々と奈曾の滝まで水汲みに。対象はアル・ケッチァーノの敷地の井戸水、イイデヴァの泉から。この2つの水の違いで、料理がどんなふうに変わるのかを、アクアパッツァにして、それは劇的に演じ表現してくれた。
今日買った本にも、何やらシェフのメソッドが手書きの絵図で記され、レシピのほうもぎりぎりと、素材の「材」ではなく「素」をけずりにけずって出してくる感じはあのときのまんま。「塩」を主人公に、決して普段のお店では見られない素材との対話、スタイル感が迸る、走る。料理する人間に、憎らしい感じで問いかけてくる。ジニアス。食べるものを素材と料理のギリギリの境界をいともたやすく追い込んで無邪気に「にこっ」と笑っている。表紙のお顔はちょっとふくよかになったけど、前とぜんぜん変わってないじゃんか。こりゃ楽しい。
冒頭、在作研発足に寄せたエッセイは2003年のもの。「今までの料理とは違う新しい世界がぼくの中で拡がり始めている」と、おさえきれないワクワク感で、庄内の食にいよいよどっぷりと浸かりながら、彼はほんとうに「今までの料理とは違う新しい世界」を産み出していった。
……思い出しつつ、あの「にこっ」と笑顔というか、「ニヤッ」と笑われちゃってる感覚を背に、本を片手に、静かなる日々の賄いにいそしむのです。
感謝。