ごあいさつにと思って家族で伺った黒富士農場。向山茂徳さん、長男の洋平さんが迎えてくれた。
黒富士農場は、山梨県甲斐市にある森の農場。奥秩父山地の前衛、黒富士山麓1100mの高地にあって、事業としてはオーガニック卵、放牧卵の生産農場であり、地域の果樹・野菜農家、学識者と連携して取り組む山梨自然学研究所の拠点でもある。
まずはオフィス棟の向いのゲストハウスでいっぷく。そこから車で、沢を隔て対岸の尾根筋に立地する生産棟に移動、そこからいつものお散歩が始まる。生産棟の拠点はGPセンターといって、卵の選別とパッキングの工場。そこからいくつかの鶏舎を横目に、上には研究所の成果、BMW技術による堆肥センターがあり、隣接する研究棟では、鶏の飼料や水の研究、今は一種の藻類が生産されていた。
研究棟から沢に下り、涼しげに風そよぐ橋のたもとでまたいっぷく。そのまま飲める沢の水で喉を潤し、沢を渡れば、事務所前のペイヴメントに出る。ガラスの温室をやり過ごし、無農薬で山ブドウが育てられている道に沿って、事務所のさらに上をめざし、いま一度歩を進めると再びひっそりと開放鶏舎。
広い敷地の中心は、沢に沿って立地する平飼養鶏の開放鶏舎なのだが、鶏舎は森の背に届かずひっそり、存在を主張しない。ここで子どもに鶏をさわらせ、そのぬくもりや、鶏たちのやさしい性質について教えてもらった。
鶏舎を西に横切り、農場のいちばん上手に建設中の見晴小屋を目指す。向山さんは今、3年ほど前に買い取った10ヘクタールほどの牧草地を、森の農場に育てていく算段を練っているそうだ。周囲を森に囲まれた、広々とした牧草地は、甲府盆地越しに毛無山が遠望される。
小屋の手前にちょうど良い木陰とベンチ。ここが向山さんいちばんの思索の場なのかな、心地よい風と美しい風景、森の香り。ここでの養鶏という営みは、この地の自然に対抗せず、農場の全体が黒富士の山の、森の気に包まれているようで、その風景は、日を追って森への同化がすすんでいるように見える。
鶏と向き合い、生命を考え、自然の循環という着想から、水の大切さを学び、水のデザインともいえるBMW技術を核とした農場を構想し、実現させた経緯は、旧ブログ「水のデザイン……向山茂徳さん」で触れた。あれから5年、茂徳さんは農場を洋平さんに少しずつ任せるようになって、今は、昔からこつこつと温めてきた、森の農場の構想に取り組もうとしている。見晴小屋は、森の思索耕作語らいの場になるだろう。
Posted on 月曜日, 8月 20th, 2012 at 1:26 AM