ザイライ

ザイライの茶葉は形もさまざま


ザイライとやぶきた? 釜炒りの未来?

お茶の“ザイライ”というのは、他の野菜などで言う在来種とは少し意味合いが異なり、品種がわからない昔からの茶樹のことを指す。お茶の品種改良は、加工特性、早晩性、地域特性、生産性、耐病虫性などの向上を目的に、国や府県の研究機関が積極的に行なってきたが、茶農家に対しては戦後積極的に、在来種茶園から品種茶園への改植指導がなされてきた経緯がある。

現在日本で登録されている茶の品種は、大別すると農林水産省の登録品種54種、種苗法によって登録されている品種51種のほかに、府県で独自に栽培されてきた品種などがある。実は茶の品種についても、日本のお茶は大きく画一化が進んだ。’54年時点での茶の品種化率は3.4%。これは当時の茶園のほとんどがザイライだったことを示すが、50年後の2004年現在で、なんと92.1%にまで品種茶園が整備されていった。ザイライは残すところわずか7.9%にまで追いやられている。しかも9割を超える品種茶園の82%が、あの“やぶきた”で占められている。これほどまでにやぶきた偏重となってしまった事実は、静岡県など自治体も問題視している。「製茶品質の画一化により、多様化する消費ニーズと隔離している」ことや「日本茶消費層に対する他の嗜好飲料や外国産茶の侵攻を許している」などだ。

この状況を、やぶきたに改植してきた生産者は、量も穫れたし揃いがいいと、当初は大いに期待していたそうだ。しかし茶商がやぶきたを評価し始め、逆にザイライに見向きもしなくなると、買い叩かれるよりはと機械を大型化しながらさらに改植を進めざるを得なかったとの話もある。

「環境に優しい茶栽培が求められている現在、少肥型品種、耐病・耐虫性品種が望まれる」とも指摘している。蒸し製煎茶があまりにも一時期に集中してしまうだけでなく、旨味を偏重する傾向は、窒素系化学肥料の大量使用を常態化させる。樹にアミノ酸の旨味を加えるためには土壌にも過剰な窒素成分を施肥しなければならず、これが度を越すと河川や地下水の汚染となり、環境問題に発展しかねない。

茶農家の指標として各府県が示している施肥標準では、窒素成分で10アールあたり50kgから70kgという数値を出しているが、これは同じ常緑樹の柑橘類と比較すると2倍から3倍の量だ。しかも窒素の過剰施肥は樹を疲弊させ、病気にかかりやすくするため、農薬を大量に使わなければ樹がもたないという悪循環も生み出していった。

今がチャンスか、釜炒り茶

釜炒り製法は、手づくりに近く生産規模こそ小さいが、萎凋の技術も相俟って、茶の香りを良く反映する。品種を多様化させて、摘採時期を集中させずに、旨味ではなく香りを求めれば、農薬や化学肥料の使用もほとんど必要がないという。むしろ化学肥料の過剰施肥は、デリケートな香りを飛ばしてしまうというし、イヤ味を残すをいう人もいる。船本さんによれば化学肥料もほとんど与えず、農薬はここ10年無農薬で済んでいるとのことだ。

「去年青柳でつくったのが“おくゆたか”。あれがいちばんうまいって感じがする。ふじかおりは、10年前に静岡の小柳さんから穂木をもらったのを挿し木して育てて。これまでの樹と香りがぜんぜん違う。それが今になって好きになってな、いいお茶ですあの香りは」

こんな話をしながらも、船本さんの居間で、松本さんは持参した自製のお茶を皆にふるまっている。ザイライの茶、萎凋の時間、仕上げの火入れをいろいろ試した茶。彼は釜炒り茶の未来に大きな夢を託して、研究、試行錯誤を繰り返している。

「これからはこげん個性ある特徴のあるお茶持ってる人が強いと思う。他はやぶきたばっかりやし、機械も大型工場になってしまって、全部工場出しやけん同じお茶ばっかり。じゃけん特徴のあるお茶が今必要とされてる。違う品種ば、どんどん入れたほうがいいと思うとっとです」「釜炒りが安かとは、がんばって高く売らんば思います。おいは100g3000円で売れる紅茶をつくりたい。わかってくれる人がきっといるけん……」。松本さんは「今がチャンス」と夢を語る。

九州の山の茶の歴史を共に生きながら“ミルいお茶”から“飲むお茶”へと転換を成し遂げた船本繁男さん。そして大先輩に学びながら、釜炒り茶に未来を託す若き茶農家、松本和也さん。世代を越えて語り継ぐことのできる、お茶にこだわって生きている人間の、ほんのひと握りの希望が、九州の山の中で小さく輝いていた。

日本茶業中央会は『平成18年度知識集約型産業創造対策事業報告書』のなかで、今後の課題として「こだわりの日本茶ブランドマトリックス構造」という報告をまとめている。そこには「摘採時期」「加熱方法」「揉捻法」「発酵法」「乾燥法」「仕上げ」「のみ方」などの指標から消費者が嗜好するお茶の方向性を“マッピング”し、現在市場で「ブランド茶」として評価されている日本茶をマトリックスの中に体系付け、こだわりの日本茶のポジションをより明確に位置づける必要があるとしている。これは蒸し一辺倒の今の日本茶の問題を改善する方向性と見える。こうした動静の今後にも大きく期待しつつ、釜炒り茶の未来を応援したい。

粗い乾燥を終えた釜炒り茶

粗い乾燥を終えた釜炒り茶、これから?

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