こだわりぬいた釜炒り

02 月 22 日



掻き手

「お茶ってものすごくナイーブで、手摘みをすると言っても、ぽきっと折り方で恐ろしく品質が違ってしまう。爪が入ったら、切り口がどんなにちゃんとしても、酸化が進んでしまう。摘み手さんのうまいへたが出てしまうんです。釜での炒り方もそう。状況によって味も香りも全部かわる、成分がかわる。変化が速いし、摘み方、時間、炒り方、両方の掛け算をすると、ものすごくいろんなものが出来てくる。それが難しいところで、最高の魅力だと思っています」。

カマボコ型の畝(うね)に整えられた改良品種がどこまでも広がり、遅霜の対策のためにだけ設置されたファンが電信柱のように林立する茶畑を、大型の乗用の摘採機で進んでいくのが現代のお茶摘み。ところが国友農園の自然生えのお茶畑は、機械で茶摘みすることを想定していない。自然生えの茶を株に仕立てるのだから、一般によく見かける一直線の畝になるワケがないし、大きさ、形、密度、生育スピードのすべてがバラバラなヤマチャでは、茶の芽の出方に合わせて、人間の目で選びながら摘むよりほかに方法がない。人間の都合が存在しないのだ。

機械での刈取りと比べたら、手摘みは雲泥の差で効率が悪いが、品質も雲泥の差になる。機械では、味に影響する茎や硬い葉の混入も多少は目をつぶる。刈った葉は大きさがまちまちになるので、その後の熱処理や乾燥がばらついて、これも劣化の原因になる。効率は悪くても、品質なら手摘みが最上なのだ。タイミングも微妙で、國友さんによれば、一芯二葉では早すぎ、三葉目が大きくなりすぎないタイミングが良いという。ただし摘み手のウデが問われる。短時間で加工する必要があるので、大人数を動員できないと、これも劣化の原因になるので、簡単ではない。

焼畑で開墾した斜面に挿し木でヤマチャを植えた、小倉山挿し木園

焼畑で開墾した斜面に挿し木でヤマチャを植えた、小倉山挿し木園



◆山のお茶の香りを釜炒り茶で

国友農園のお茶は、釜炒り茶だ。工場には、少し傾斜した直径90センチほどの鉄の釜が5つ据えられている。お茶の時期になればこれを2人1組で、ていねいに炒り上げていく。回転するカギ手をつけて自動化する方法もあるが、國友さんは、ここでも手仕事にこだわった。

時間と水蒸気の量さえ合っていれば、均一に、連続的に仕上がっていく蒸し製の製茶機械の操作は、業界で「蒸してポン!」と言われるほど簡単、と聞いたことがある。その効率はさすがのものだが、それではせっかくの自然生えのヤマチャの香気が飛んでしまう。蒸してはだめ。大陸でも日本でも、煎茶でも烏龍茶でも、茶に香りを求めるなら、釜で炒るのが最上だ。

「機械なら焦げてしまうような高温で炒り上げる。うちは経験で学んでいきましたが、ここは度胸でばりばり押し付ける。焦げるのを恐れて低温にすればムレたような香りになる。かといって単純な高温で回しては、焦げる。葉の中に熱を貯めて、いかに短い時間に葉温を上げるかがポイントになります。人間の感覚を総動員して、神経を集中して、手で炒らないと。このやり方は誰もまねできないと思います」。


お茶は摘んでから釜で炒るまで、劣化させてはいけない。炒り始めて、焦がしてもいけない、國友さんは、山のお茶の香り、摘んだままの生の葉のような青々しさを留めたお茶にしたいと考え、“酸化させない”ことにずっとこだわってきたという。

「お茶は酸化酵素の働きがすごく微妙なので、いろんな味になります。酵素がどういう反応で関わったかによってお茶の味が変わってくる。これを積極的に活かそうとするのが日に当ててしおれさせたり(日光萎凋)、葉をゆすって刺激したり(揺青)。良くも悪くも、あらゆる状況がお茶を変化させる要因になるんです」。

釜炒りは難しい。葉の水分は朝昼晩で、気温でも違う。葉のしおれ具合(萎凋)でも違う。萎凋した葉は、葉の中の温度を上げるべき水分が少なく、焦がさぬように温度を上げるのはとてもむずかしい。硬い葉や、釜にこびりついて動かない葉も焦げやすい。水分が多い葉の方が簡単と思えるが、動かすと葉の間に空間ができて温度が上がらない。焦げるのを恐れてかき混ぜすぎても葉温が上がらず、炒る時間ばかりかかり、フレッシュ感のない、ゆですぎのお茶になる……。

これだけの変化に、機械では対応ができない。國友さんにすれば、それではせっかくの山のお茶の香りを生かせない。毎春毎春、実験を重ね、釜で炒ることそのものを学んでいった。体全体、特に嗅覚を研ぎ澄ませ、回数を重ねて、社員と一緒になって、手で炒る釜炒り茶の、炒り方のコツをつかんでいった。

「綿の手袋3枚つけて2人1組、1分交代で炒るんです。焦がさぬよう、細心の注意で作業します。たとえば、細かい葉などは釜から離れにくくて、しまいに焦げますから、目ざとく見つけては、竹のささらで払うんです。それぐらいせんと微妙な焦げ香がつく。 みんな今は名人級なんですよ」。

“りぐり茶”。りぐり、りぐる、とは「徹頭徹尾こだわりぬく」こと。それが国友農園の“りぐり茶”として、山に暮らす社員の皆との共同の作業によって、育っていった。

小倉山挿し木園

(続く)

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